モフトレ通信 -Vol.022-
2021.05.18
フレイル悪化の警鐘 ~ポストコロナのフレイル対策~
モフトレ通信vol.4で、昨年の6月時点の緊急調査から、すでに通所系や訪問系の介護サービスの6割以上で利用者のADLが低下している、という結果をご紹介しました。その後、約1年が経過し、第4波のコロナ禍にありますが、フレイル悪化の裾野がさらに地域に広がっていることを裏付ける報告も出ています。今回は、改めてポストコロナのフレイル対策のお話です。
【コロナフレイル】
全国73の自治体で導入されているフレイルチェックの結果からは、自粛生活の長期化に伴うフレイル化およびフレイル状態の悪化の進行が判然としてきました。
ある自治体で行ったフレイルチェックでは、約半分近い高齢者で握力の低下や筋肉量の減少が認められているそうです。こうした変化は、特に社会参加や人との繋がりが低下している高齢者の群で顕著になっています。そして、コロナ禍による筋力量の減少や歩行速度の減少が、生活の質に及ぼす悪影響についても明らかになってきました。「身体活動」の量が低下してしまった人の中には、筋力量が低下した人がそうでない人の2.8倍、人と会う機会(「社会参加」)が減少してしまった人の中には、同じく3.4倍、口腔機能の低下を訴えた人の中には、同じく5.2倍、それぞれ多いことがわかりました。歩行速度が減少した人についてもほぼ同様の傾向が報告されています。フレイルを構成する3要素のすべてに対し、悪い影響が及んでいることが確認されたのです。
【ポストコロナのフレイル対策】
政府は、高齢者のワクチン接種が7月までには終了する見込み、としています。しかし、これで高齢者の活動を再開させればフレイルは元に戻る、という単純な話ではないと、上記の結果を報告された東大の飯島先生は指摘しています(※1)。①高齢者が戻っていく地域コミュニティの再構築と②高齢者個々人の行動変容の促進、の2つの視点を意識したポストコロナのフレイル対策が不可欠だというのです。
2つの視点のうち特に②に関わりますが、自宅生活のさらなる充実、ということが大事なポイントになると思います。自宅生活の割合が多い高齢者の場合、自宅で活動量を確保する行動変容を促進することです。これについては、やはりvol.4で紹介した神戸市の実証実験が、期待を持てる結果を出しています。コロナ禍で外出ができないなか、80名の高齢者がオンラインで繋がって行う集団の体操、自宅で行う体力測定や体操を繰り返すことで、2カ月間の間に着実に歩行速度が20%近く改善するなど、顕著な効果を確認することができました。
自宅で取り組むオンライン体操の実証実験(出所:株式会社Moff作成)
地域の高齢者が主体的に参加する通いの場がコロナ禍で停止しているなか、今後は、こうしたオンラインで自宅生活の充実を高めようとする試みは、さまざまな自治体で展開される見込みです。主に介護予防でこうした動きが本格化すれば、通いの場に相当する通所系介護サービスについても、同様な動きはでてきます。コロナ禍により既存の介護事業者の経営が苦戦する一方で、新たな成長機会として異業種からの参入組が増えていますが、こうした参入組は、オンラインのような新サービスの開発にも積極的です。ポストコロナを見据えたフレイル対策は、介護業界にとっても画期をなす動きとなる可能性があると思います。
※1 飯島勝矢:「With コロナ時代のフレイル対策 -日本老年医学会からの提言-」、「エイジングアンドヘルスNo.97 2021年春号」、公益財団法人長寿科学振興財団、p.6-p.9
https://www.tyojyu.or.jp/kankoubutsu/pdf/Aging%26Health97_light.pdf
以上
(文/(株)三菱総合研究所イノベーション・サービス開発本部 主席研究員 飯村 次郎)